街中で「ヘルプマーク」を見かける機会が増えてきました。外見からは分からなくても、援助や配慮を必要としていることを知らせるこのマークは、社会の中で少しずつ浸透しています。しかし、聴覚に障害を持つ私にとって、このマークだけではカバーしきれない「もどかしい瞬間」が存在します。それは、背後からのコミュニケーションです。
本日は、私が実践している、ある小さな工夫についてお話ししたいと思います。
| 難聴だと背後からの声掛けに気付けないのです |
「無視してしまった」という罪悪感
重度の難聴がある場合、背後からの呼びかけに気づくことは非常に困難です。 例えば、バスや電車の中での出来事です。混雑した車内で、親切な誰かが私のヘルプマークに気づき、「席を譲りましょうか?」と後ろから声をかけてくれることがあります。
視界に入っている相手なら気づくことができますが、死角となる後方から声をかけられても、私はその声に全く気づくことができません。 あとになって、ふとした周囲の視線や気配で「あ、もしかして今、声をかけられていたのではないか?」と察する瞬間があります。しかし、時はすでに遅く、相手の方は反応のない私の背中を見てどう思ったことでしょうか。
その時、悪いことをしたわけではないのに、胸に小さな罪悪感が広がります。 「せっかくの親切を無視してしまった」 「無愛想で失礼な人だと思われただろうな」
相手の善意を受け取れなかった申し訳なさと、誤解されてしまったかもしれないという不安。この「背中のミスコミュニケーション」は、私にとって精神的な負担となっていました。
状況を「可視化」するという解決策
そこで私が始めたのが、今回ご紹介する4コマ漫画にあるような「状況の可視化」です。 ヘルプマークと一緒に、アクリルケースに入れた独自のタグを鞄につけることにしました。そこには、はっきりとこう記しています。
『【難聴です】【聞こえてません】』
これは単なる事実の提示ですが、コミュニケーションのあり方を劇的に変える力を持っています。
この表示があることで、周囲の方は「無視された」のではなく「聞こえていないのだ」と即座に理解してくれます。その結果、呼びかけに反応がなくても「仕方がない」と納得していただけますし、場合によっては肩を叩くなど、視覚や触覚に訴える別の手段でコミュニケーションを取ってくれることもあります。
優しさを無にしないための準備
このタグをつけることは、周囲への甘えではなく、**「優しさを無にしないための準備」**だと私は考えています。
障害の有無にかかわらず、コミュニケーションのすれ違いは誰にとってもストレスです。しかし、こちらから「聞こえない」という情報をあらかじめ開示しておくことで、相手の誤解を防ぎ、私自身の「気づけなかった」という罪悪感も減らすことができます。
もし、街中でこのタグを見かけたら、反応がなくても「悪気はないんだな」と思っていただければ幸いです。そして、同じような悩みを持つ当事者の方がいらっしゃれば、ぜひこの「可視化」という手段を試してみてください。
言葉が届かない背中でも、情報の伝え方を工夫することで、社会の優しさをこぼさず受け取ることができる。そう信じて、私は今日もこのタグと共に外出しています。
現実の効能は…!?
ちなみに、このタグをつけてからの「現実」はどう変わったかと言うと……。 正直なところ、席を譲ってもらえることよりも、満員電車などのドア付近に立っていて「避けてほしい」という意味で、グイっと体を押されることが多くなりました。
東京の電車やバスは混雑が激しいですからね。 ちょっぴり切ないですが、これも「聞こえていないなら体で伝えるしかない」という、一応のコミュニケーションが成立した結果だということで(笑)。
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