はじめに:聞こえないことと、脳の活動
私はかなり重度の難聴を持っています。近年、医学的な統計において「難聴の人は認知症になりやすい」という話は、もはや定説として語られるようになりました。耳からの情報入力が減ることで脳の活動が低下したり、コミュニケーションが億劫になって孤立したりすることが原因だと言われています。
この事実は、私にとって決して気持ちの良いものではありません。しかし、嘆いていても聴力が戻るわけではありません。「ならば、耳からの刺激が減っている分、耳以外からの刺激で脳を圧倒的に忙しくさせてやればいいのではないか?」――私は最近、そう考えるようになりました。
今日は、私が実践している「脳への意図的な刺激」としての生活習慣、そして少しユニークな週末の過ごし方について書いてみたいと思います。
脳は「慣れ」が大好物。だからこそ「裏切る」必要がある
そもそも、なぜ認知機能が衰えるのでしょうか。一つの仮説として、日々の生活が「ルーチン化(パターン化)」してしまうことが挙げられます。
人間の脳は優秀なので、毎日同じ通勤路、同じ仕事、同じ人間関係の中にいると、最小限のエネルギーで動けるように「自動操縦モード」に入ります。これは生存戦略としては正しいのですが、脳の機能を保つという点ではマイナスです。特に私のように聴覚情報が不足している場合、視覚や体験による刺激まで「いつものこと」で済ませてしまうと、脳への入力は激減してしまいます。
そこで必要なのが、**「意識的に日常を覆す」**ことです。 毎日の通勤経路を一本変えて、違う路地の景色を見る。季節によって変わる街の装飾を、「なんとなく」ではなく「意識して」観察する。これだけで、脳の空間認識能力や注意機能はフル稼働し始めます。
「旅行の疲れ」の正体は、脳の疲労である
皆さんは、旅行から帰ってきた時、どっと疲れを感じたことはありませんか? よく考えてみると不思議なことです。観光バスや電車に乗っている時間が長く、物理的に歩いた距離は普段と変わらないかもしれない。それなのに、なぜあんなに疲れるのか。
私は、これこそが**「脳がフル回転した証拠」**だと思っています。
見知らぬ土地では、脳の「自動操縦」が通用しません。「このバスで合っているか?」「次はどこで曲がるのか?」「見たことのない看板がある」――。脳は常に予測不可能な情報に対処し、リアルタイムで判断を下し続けています。体が動いていなくても、脳はずっとフルマラソンをしているようなものです。
つまり、旅行後の心地よい疲労感は、脳がしっかりと刺激を受け止め、活性化した証(いわば脳の疲労)と言えるのです。これこそが、認知症予防における最強のトレーニングではないでしょうか。
週末の「冒険」:AIに提案させ、最後は私が決める
毎週旅行に行ければ理想的ですが、予算も時間も限りがあります。そこで私は、「近場の知らない場所」を散歩することを習慣にしています。
ここで面白いのが、行き先の決め方です。私は最近、AI(人工知能)をパートナーにしています。 「都内近郊の金運のご利益のある神社を教えて」「怪しげで、でも一般人でも行ける廃墟・遺構を教えて」とか興味のあることをなんでもAIに投げかけ、あえて「行動予定量の10倍の量の計画(選択肢)」を作ります。
なぜ10倍も出させるのか。10倍くらい情報を持っていれば、その中からその時に応じて好きなものを「決断」できるから。決断という行為こそが脳の前頭葉を刺激するからです。計画が1つしかなかったら、単なる行動プログラムと化してしまいます。計画を緻密にたてて、行動予定通り行動することが美学なんてのは、自衛隊の演習だけでよろしいです。計画候補をたくさん持っていると自然に「選択と決断」ができます。それに達成の義務感もないのでストレスも少ないです。
情報収集という作業で脳を疲れさせるのではなく、最後の「意思決定」にリソースを集中させる。そして、その日の気まぐれで選んだ場所へ行き、初めて見る景色の中を歩く。このプロセス自体が、高度な脳トレになっています。
「消費」だけでなく「創造」も刺激になる
場所を移動すること(インプット)以外にも、脳への刺激を与える方法はあります。それは「新しいことを生み出す(アウトプット)」ことです。
今まで作ったことのない料理のレシピに挑戦する。
DIYで生活を便利にする道具を作ってみる。
あるいは、こうして自分の考えをブログに書いてみる。
「やったことがないこと」に挑戦する時、脳は試行錯誤を繰り返します。手順を考え、手を動かし、失敗して修正する。この一連の流れもまた、日常のルーチンを打破する強力な刺激です。
おわりに:難聴を「攻めの生活」のきっかけに
「難聴だから認知症になるかもしれない」と怯えて引きこもるのが、一番のリスクです。 聞こえにくい分、私は人一倍、目で見て、足で歩き、直感で選ぶ生活を楽しもうと思います。
「今日はどこで脳に刺激をれさせてやろうか?」 そんなゲーム感覚で、明日もまた、いつもとは違う道を選んで歩いていくつもりです。皆さんも、日常の中に小さな「非日常」を取り入れて、脳に心地よい汗をかかせてみませんか?